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銀鉄SS 「Diamond dust」 (バルジ×ブルース、現代パラレル) 

林の中に張ったテント。その前で俺は、簡易コンロに火を熾し、湯を沸かしていた。
厚手のコートを着込んでもなお、この寒さは服を通して肌に染み込んでくる。
テントの中からは、ラジオが聞こえてくる。今夜の天気予報だ。それによると、現在の気温は2度。寒いはずだ。
「ブルース、コーヒーは出来たか?」
テントの中からひょこっと顔を出したのは、シュワンヘルト・バルジ。新進気鋭の写真家だ。
「もう少しです、バルジ隊長。」
鍋の中を見つめながら、俺は答えた。
俺は、彼の助手をしている。彼は何故か、自分のことを「隊長」と呼ばれるのを好むので、俺は彼を「バルジ隊長」と呼んでいた。
ほどなくして湯も沸き、俺は二人分のマグカップにインスタントコーヒーの素をいれ、湯を注いだ。
彼のカップには、角砂糖とミルクが一つずつ。俺は…、甘くしないと飲めないので、角砂糖もミルクも多めに入れてある。
湯気の立ったカップを手に、俺はテントの中へ入る。何やらノートにメモを撮っていた彼に、そっとカップを差し出した。
「お待たせいたしました。」
「あぁ、ありがとう。…うん、良い香りだ。」
俺の手からカップを受け取り、彼は嬉しそうに笑う。一口飲むと、温かな吐息を一つ、ほわっと吐き出した。
「美味い。やっぱり、ブルースの淹れてくれたコーヒーは最高だな。」
それはそうだろう。彼の好みの味など、分かりきっている。
「…ありがとうございます。」
俺もカップに口を付けながら、上目遣いに彼を見る。
「天気予報によると、今夜もよく晴れて、冷えるそうだ。今度こそ絶対に撮ってみせるぞ、ダイアモンドダストを!」
そう言う彼の瞳は、まるで子供のように輝いていた。

彼には、ずっと抱いていた夢があった。
それは、「ダイアモンドダストを、写真に収める」というもの。写真家になったのも、その夢を叶えたいから、らしい。
何でも、幼い頃に親戚の家に泊まったときに一度見たのだという。それから彼はずっと、ダイアモンドダストに魅了されているのだ。
「今度こそ」というのは、彼はもう何回もダイアモンドダストを撮ることに挑戦しているのだ。しかし、タイミングが悪かったり、気象条件が悪かったりで、なかなかチャンスに恵まれずにいる。
だが、彼は決して諦めない。だからこうして、今年も真冬の北海道の山奥の、林の中まで来ている。
「明日の朝あたり、見られると良いな、ブルース。」
「そうですね。」
無邪気な笑みを浮かべる彼に、俺は胸を高鳴らせながら頷いてみせた。

俺は、彼に恋をしている。
きっかけは、俺がまだサラリーマンだった頃、偶然前を通ったギャラリーで彼の個展が開かれていたことだった。
何となく入ってみたのだが、そこで俺はもう1枚目の写真に呆然と見入ってしまった。
ファインダーに切り取られた、風景の優しさ。仕事に追われ、潤いのない生活を送っていた俺にとって、かなり衝撃的だった。
彼の作品は、心の底から温かくしてくれるような、不思議な温もりを持っていた。恐らく、彼の人柄が写真から滲み出てくるのに違いない。
「いかがですか?」
「っ!?」
放心状態のところに、いきなり後ろから声を掛けられて、俺は飛び上がらんばかりに驚いた。
「あぁ、すみません。驚かせてしまったようですね。」
振り向いた俺の目に飛び込んできたのは、今とちっとも変わらない、屈託のない笑顔。

恋に落ちるには、十分すぎた。

それから、何を話したのか覚えていない。ただ、俺は帰ってからも、彼の笑顔が目に焼き付いて、離れなかった。
しかし、俺は彼のことを、当時は名前しか知らなかった。その後も、外回りの間を縫ってギャラリーに通い、彼とたくさん話をしたが、俺の心は満たされなかった。
彼を知れば知るほど、もっともっと深くまで知りたいと思ってしまう。しつこくしすぎて嫌われるのが怖くて、俺は写真の感想や、世間話しかできなかったんだ。
そうしている内に、個展の期間は終わった。もうあそこへ行っても、彼には会えない。名前しか知らないのに、どう探せばいい? 俺は困り果てていた。
名前を頼りにネットで探しても、彼はサイトを持っていないらしく、まったく情報が見つからない。時が経つにつれ、彼への思いはますます強くなっていった。
それから半年くらい経ったある日、俺は仕事で必要な物を買いに、デパートまでやってきた。
そのデパートは、地下にギャラリーがあり、よく展示会をやっている。何の気なしにインフォメーションを見た俺は、その場に凍り付いたようになった。
「シュワンヘルト・バルジ 天上の風景」と書かれたポスターが、そこにはあった。
間違えるはずもない。確かに彼の名だ…! 俺は買い物を後回しにし、一目散に地下のギャラリーへと向かった。
息を切らして入ってきた俺を、彼は驚きながらも優しく迎えてくれた。
「あ、お久しぶりですね! お元気でしたか?」
以前と同じように、優しく話しかけてくれる彼に、俺はとんでもないことを口走った。
「お願いします! 俺を、あなたの弟子にしてください!」
「…え、えええっ!?」
その場に手をつき、土下座のような真似までして頼み込む。俺は必死だった。もう彼と会えなくなるのは嫌だったから。
俺の熱意…、もとい、剣幕に負けたのか、彼は弟子入りを許してくれた。ただし、「弟子」ではなく、「助手」という形だった。
「私はまだ、弟子をとれるような身分ではないので…。」
そう言って、彼は照れたように笑う。そう、その笑顔に、俺は心を奪われたのだ。彼に受け入れてもらえたことが、すごく嬉しかった。
俺は、週末限定で彼の助手を勤めることになった。平日は今までの仕事、そして週末は俺の車に彼を乗せ、遠出をする。数え切れないくらい、二人で色んな場所に行った。山奥で冷えきった体を温泉で温めたり、海でクジラを撮影したり、…楽しかった。
打ち解けるにつれ、彼は俺に敬語を使わなくなった。彼は、よほど親しい人でない限り、常に敬語である。それも信頼の証であり、俺を嬉しくさせた。
そして今、彼は長年の夢を、ようやく叶えようとしている。協力は惜しまない。その瞬間の彼の顔を、いち早く見ることが出来るから。
「さて、少し早いが、そろそろ休もう。明日も早いからな。」
「わかりました。」
俺はコーヒーのカップを片づけ、二人分の寝袋を用意する。保温のためのガス灯をテントの中央に吊し、俺たちは寝袋に潜り込んだ。
「……。」
しばらくすると、彼が寝袋の中でもぞもぞと動き始めた。どうやら、まだ眠れていないらしい。
「…バルジ隊長、どうなさいました?」
「…いや、すまん。何だかわくわくしてしまってな…。」
寝袋から覗かせた彼の顔は、ガス灯の灯りに照らされて、とても明るかった。
「子供みたいだと自分でも思うが、いよいよ夢が叶うって時になると、なかなか眠れないものだな。」
「…そうですね。」
彼の言い方が面白くて、俺は自然と笑顔になる。
「楽しみだなぁ…。」
溢れ出す期待を呟きに込めて、彼は天井を見つめる。それから少し沈黙が続いたので、てっきり眠ったのかと思ったら、彼は唐突にこんな事を言い出した。
「ところでブルース、お前の夢は何だ?」
「…え? 俺の、夢ですか…?」
「そうだ。お前は、どんな写真を撮ってみたい?」
「……。」
考えたことがなかった。彼の夢を叶えるためだけに動いてきたから、いざ自分でやりたいこと、と聞かれても、答えられない。
「別に、写真ではなくてもいいんだぞ。どこに行ってみたいとか、何かを見てみたいとか、そういった事でも…。」
「…隊長、なぜいきなり、そのような事を聞くのですか?」
俺が問うと、彼は照れたように含み笑いを漏らし、続けてこう言った。
「…私の夢を叶えるために、ブルースはたくさん協力してくれた。だから、私の夢が叶った後は、今度はお前の夢を叶える手伝いをしたい。そう思ってな。」
「隊長…。」
とくん、と心臓が音を立てて鳴る。こちらを見つめる彼の目は、優しく、そして真剣そのものだった。
「何か考えておいてくれ。私はぜひとも、ブルースに恩返しがしたい。」
「…分かりました。」
「うん。じゃあ、おやすみ…。」
「お休みなさい、バルジ隊長…。」
それきり、彼はこちらに背を向けてしまう。程なくして、安らかな寝息が聞こえてきた。だが、俺は自分の心臓の音が気になって、なかなか眠れずにいた。
…もし、「俺と付き合ってください」と頼んだら、彼はよい返事をくれるだろうか。
それとも、いくら俺の夢であっても、無理だと断るだろうか。
いずれにしろ、口には出せない。

午前5時。まだ太陽が出ないうちから俺たちは起きだし、撮影の準備を始めた。
インスタントのスープと携帯食料で朝食を済ませ、俺たちはテントの外に出た。途端に、身も凍るような寒さが襲いかかる。
「うっ…!」
堪らず、体を固くする俺に、バルジ隊長は予備の毛布を掛けてくれた。
「大丈夫か?」
「あ、はい…。」
彼のくれた毛布に、体全体が暖かくなる。こんな、何気ない優しさに触れるとき、俺は彼が好きなんだと再認識させられる。
テントの外に、折り畳みの椅子を2つ。そこに並んで腰掛けて、俺たちは夜明けを待った。
「……。」
バルジ隊長は、早くもカメラを構えていた。夜が明ける前の、ほんの少しの間でも、見逃したくない。そういった表情だった。
風もなく、気温も低い。先ほど温度計を見たら、氷点下12度だった。ダイアモンドダストを見るには、絶好の条件だった。
やがて、空が白んできた。と同時に、バルジ隊長の期待感も最高潮に達してきた。
「もうすぐだ、もうすぐだぞ…!」
カメラを持つ手が震えている。緊張と興奮で落ち着かない彼の肩を、俺はぽんぽんと叩いた。
「…っと、そうだな。こんな時こそ、落ち着かないといけないよな。」
大きく息を吐いて、バルジ隊長は俺に笑顔を向ける。何もかもが凍ってしまいそうなこの氷点下の世界の中でも、俺の胸の中は温かくなっている。そして、恐らく一番熱いのは、この日のためにずっと準備をしてきた、バルジ隊長の情熱だろう。
「……。」
隊長…、俺の夢、本当に叶えてくれますか…?
その時、山の端から太陽の光が射し込んできた。あまりの眩しさに手で顔を覆うと、俺たちの周りに、無数の小さな氷の粒が舞い始めた。ダイアモンドダストだ…!
「ブルース!!」
「はい!」
夢中だった。何回もシャッターを切った。何回もフィルムを交換した。持ってきたフィルムを使い果たしたところで、彼はようやくカメラを下ろした。
「やった…!」
会心の笑みを浮かべ、バルジ隊長は俺に抱きついてきた。
「やったぞ、ブルース!!」
「…おめでとうございます、バルジ隊長!」
少しびっくりしたが、俺もすぐに彼の背中に腕を回す。
「うむ。ありがとうブルース、お前のおかげだ。」
「…いえ、俺は別に…。」
「いや。ブルースには、本当に感謝している。私の長年の夢が叶った瞬間に、お前が一緒にいてくれて、本当に良かった…。」
「隊長…。」
見上げた彼の顔は、今まで以上に優しく、喜びのあまりか、瞳が潤んでいるように見えた。
「…ブルース、ダイアモンドダストが無事に撮れたら、お前に言おうと思っていたことがあるんだ。聞いてくれ。」
「はい…。」
バルジ隊長はじっと俺を見つめ、顔を赤らめる。その様子を見て、少しだけ開けた俺の唇を、彼はいきなり自分ので塞いできた。
「んっ…!」
思わぬ形で降ってきた口付けに、俺はどうする事もできない。唇を離した後、彼は苦笑を浮かべ、俺に謝ってきた。
「…すまん、順番を間違えた…。」
「……!?」
まだ混乱している俺を落ち着かせるように、バルジ隊長は俺をもう一度抱きしめ直す。
「ブルース…、愛している。これからもずっと、私のパートナーでいてくれ。」
「隊、長…!」
彼の言葉が、胸に染み渡る。気がつくと、俺は隊長の背中に回した腕に、さらに力を込めていた。
「…返事をしてくれ。」
「ぁっ…、すみません。…俺で良かったら、その…。」
ダメだ、上手く言葉にならない。それが分かったのか、隊長が助け船を出してくれた。
「…OKなんだな?」
「…はい!」
大きく頷くと、彼は先ほどよりももっと嬉しそうに笑った。
「良かった…!」
自分を包む温もりが嬉しくて、何だが涙腺が弱くなってきた。
「ところでブルース、昨夜も聞いたが、お前の夢は何だ?」
「あぁ…、もう、叶ってしまいました。」
この思いを受け入れてもらい、彼とこれからもずっと一緒にいたい。それが俺の夢だったから。
「…そうか、ブルースも、私と同じ気持ちでいてくれたんだな。」
「はい。」
滲んできた涙を指で拭い、俺は改めて彼を見つめる。青色の双眸が映す景色を、これからもずっと、その隣で見られるのだ。それ以上の喜びがあるだろうか。
「…愛しています、バルジ隊長。」

まだ消え残るダイアモンドダストが空気中を舞う中、俺たちは互いの温もりを確かめ続けていた。

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