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必殺SS 「覚悟」 (主水×田中←溝呂木) 

時々、私は自分で自分が情けなくなる。
手配中の賊を、みすみす取り逃がしたとき。上役に叱られているとき。
そして、あの人への想いを、改めて気づかされるとき。


「中村さんっ! ちゃんと仕事してくださいっ!」
今日も、私は彼の名を呼ぶ。ここに来てからというもの、私は彼に怒鳴らない日はないのだ。
「はいはい…。」
私に言われて、中村さんは面倒くさそうに立ち上がる。それを追い立てるように、
「市中見回り、ちゃんとやってくださいよ! 怠けていたら承知しませんよ!!」
「わかりましたよ…。」
あくびを噛み殺しつつ、中村さんは出掛けていく。その後姿を見ながら、私は大きくため息をついた。
(まったくあの人は…。どうして…。)
仮にも南町奉行所の同心なんですから、もう少しきびきびと動いてくれても罰など当たらないのに。
それに…、私の想いにも気づかないし…。
いえ、気づいて欲しいというわけではないんですけど…。
考えに沈みそうになり、私は慌てて頭を振った。
とにかく、中村さんにはもう少ししっかりしていただかなくては困りますね。
踵を返して、私は同心の溜り部屋へと戻る。すると、人気のなくなった部屋の中に、何か落ちているのが目についた。
「何でしょうね…。」
拾い上げてみると、それは中村さんがいつも使っている襟巻きだった。
「……。」
手の中のそれには、まだ少し温もりが残っていた。同時に、私の胸には彼への想いが噴き出す。
ぐっと唇を噛み締め、胸の苦しさをやり過ごす。私が苦しい思いをしていることを、中村さんは露ほども知らないだろう。
「中村さん…。」
震える唇で彼の名を呼ぶと、もうどうしようもない。私は襟巻きを胸に抱きしめた。徐々に薄れていく温もりが悲しくて、それでも涙はこぼさなかった。
「……はぁ…。」
痛みをため息で外に出し、私は胸の襟巻きをさらに固く抱きしめる。微かに中村さんの香りがするような…。
「……田中様?」
「ひっ!?」
急に後ろから声を掛けられ、私は驚いて振り返る。溜り部屋の入り口で、溝呂木さんがこちらを見ていた。
「みっ…、溝呂木さん、まだ残っていらしたんですか?」
「ええ、少々書類の整理を…。で、田中様はここで何を…?」
言いかけた溝呂木さんの目が、私の胸の辺りで止まる。次の瞬間、彼ははっと目を見開いた。私が持っているものが何なのか、溝呂木さんは分かってしまったようだ。
「…田中様、それ…。」
「えっ、あ…!」
「…中村さんの持ち物、ですよね…? どうして、田中様がそれを抱きしめていらっしゃるんですか…?」
そう言いながら、溝呂木さんは私のほうに迫ってきた。私は襟巻きを隠すことも忘れて、
「こ、これはですね、私が保管しておいて、中村さんが帰ってきましたら渡そうと思いまして、その……。」
慌てて言い繕うけれど、赤く染まった頬は誤魔化せない。顔を伏せた私を見て、溝呂木さんは何故か少し、悲しそうな顔になった。
「…やはり、田中様が中村さんに想いをかけていらっしゃるというのは、本当のことだったんですね…!」
思いがけない言葉に、私は驚いて彼を見た。
「…溝呂木さん、ご存知だったのですね…!」
「いえ…、今の今まで、私も半信半疑でした。ですが、この目で見てしまった以上、事実なのだと認めるより他に…。」
そこで言葉を切り、溝呂木さんは完全に俯いてしまう。わざと細く長く息を吐いて、私は気持ちを落ち着けた。
「…みっともない所を、お見せしてしまいましたね。」
胸に置いた両手をたらし、私は溝呂木さんから視線を外す。
「…確かに、私は中村さんに対して、想いをかけています。あの人は確かに同心としては及第点にも届きませんが、
何故か私の心に入ってきて、出て行ってくれないのですよ。」
「しかし…!」
「ええ、わかっています。中村さんには奥様がお有りです。恐らく、私の想いには答えてくださらないでしょう。」
それを全部知っていて、覚悟の上で、私は中村さんへの想いを育ててきたのだ。
誰にも見つからず、気づかれないように、ひっそりと。
「…でも、溝呂木さんには隠しきれませんでしたね。」
自重めいた笑みを浮かべる。すると、溝呂木さんは今まで伏せていた顔を上げて、何やら決意のこもった瞳をこちらに向けてきた。
「…田中様、私では、中村さんの代わりにはなれませんか!?」
「えっ…!?」
戸惑う私に、溝呂木さんは二歩ほど私との距離を詰める。
「私だったら、田中様がお辛い時に、側にいてさしあげられる…! 今以上に、田中様の支えになってさしあげられる…!」
「溝呂木さん…。」
彼の視線を、私はしばらくその身で受け止めていたが、息を吐き出すと共に一旦目を閉じ、それから改めて口を開いた。
「…溝呂木さん、あなたは優秀すぎます。とても、昼行灯の代わりなどには使えませんよ。」
「ですが…!」
「それに……。」
仮に溝呂木さんを受け入れたとしても、私の中の、中村さんへの情は消えない。
「人の思いは、心は、人がどうこう出来るようなものではありませんからね…。」
外からでは変えられない。自分自身がそう思わなければ、心は動かない。
そして、私の心が変わらないのを察したのか、溝呂木さんはしばしの逡巡の後、深々と頭を下げた。
「…出過ぎた真似をいたしました。申し訳ありません。」
「良いんですよ…。溝呂木さん、あなたは優しい方ですね…。」
「いえ…。それでは、私も市中見回りに出ますので…。失礼いたします。」
もう一度頭を下げ、溝呂木さんは溜り部屋を後にする。一人残された私は、微かな胸の痛みに顔をしかめながら、
持ったままだった中村さんの襟巻きを、もう一度抱きしめた。


それから間もなく、溝呂木さんは南町奉行所を去った。
故郷へ帰り、親御さんの手伝いをする、とだけ言い残し。
彼は、あの溜り部屋でのことを、誰にも漏らさなかった。あの会話は、私と彼の胸の中だけにしまい込まれ、
他の人に知られてしまうことはないだろう。
私はこれからも、南町奉行所の筆頭同心として、日々の仕事に忙殺されていくに違いない。
時折胸を痛ませるこの感情を、ひた隠しにし続けて。

私は今日も、満たされぬ想いを抱えたまま、生きていく。

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カテゴリ: 仕事人SS

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