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銀鉄SS 「PRIME TIME」 (バルジ×渉) 

それは、本当に小さな旅行だった。
旅行と呼ぶには、短すぎるかもしれない。
だが、私にとっては、何よりも大切な時間だった。
ポケットの中に収まってしまいそうな、そんな小さな旅。


自分が、有紀隊長を愛していると自覚してから、一週間が経った。
私の気持ちを知ってか知らずか、彼はいつも通り屈託のない笑顔をこちらに向けてくれる。
その度に、私の胸は甘く痛むのだ。
(弱ったな…。)
自分の内に生まれた感情に、自分自身が一番戸惑っていた。

その日、私たちはディスティニー駅の警備の任務に当たっていた。
特に問題もなく任務も終わり、後は最終列車の発車を待つだけとなっていた。
「みんな、今日一日、ご苦労だったな。この列車が出発すれば、本日の任務は終了だ。
だが、いつ何が起こるかわからん。注意を怠るな。」
「はい!」
有紀隊長の声で、全員が気合を入れなおす。だが、私の胸はまたも熱く高鳴り始めてきた。
心臓の音がやけに耳につく。敬礼した手をそのまま胸に持っていくと、有紀隊長が私に声を掛けてきた。
「バルジ、どうかしたのか?」
「っ! い、いえ、何でもありません!」
「…そうか。それならいいが…。」
その時、一陣の風が吹いた。その風はディスティニー駅の構内を吹きぬけ、有紀隊長の頭の帽子を飛ばしてしまった。
「あっ…!」
私は即座に帽子を追いかけた。風に吹かれ、どこまでも転がっていく帽子。私は夢中でそれを追って走った。
「バルジっ!」
後から有紀隊長が追いかけてくる。帽子はかなりの距離を転がり、ホームに停車中だった列車のデッキに転がり込み、やっと動きを止めた。
私は息を弾ませて駆け込み、帽子を拾い上げる。追いついてきた有紀隊長にそれを手渡そうとした瞬間、発射のベルが鳴った。
「しまった…!」
それが、今日ディスティニーから出発する最終列車である事に気づいたときには、もう手遅れであった。
私と有紀隊長を乗せたまま、列車は走り出してしまったのだ。

「有紀隊長…、申し訳ありません!」
列車が宇宙空間に出てから、私はようやく謝罪の言葉を口にした。
「何故謝る? 私の帽子を拾ってくれたのだ。何も悪いことなどしてないじゃないか。」
「しかし、結果的に有紀隊長を巻き込んでしまいました…!」
なおも頭を下げる私を、彼は笑って許してくれた。
「気にするな。バルジが頑張っているのは、私が一番良く判っている。」
「隊長…!」
胸が燃えるように熱くなった。私はやはり、この人が好きだ…!
「しかし、どうやって戻ろうか…。」
そう呟き、眼下に広がる星の海を眺める有紀隊長。その横顔に、私はつい見とれてしまった。
出来る事なら、このままずっと、二人きりでここに居たい…!
「有紀隊長…。」
知らないうちに、私の口は彼の名を呼んでいた。それに気づいた有紀隊長が、視線をこちらに向ける。
「どうした?」
優しく微笑まれ、たちまち顔が紅潮する。言葉に詰まった私は、まだ手に持ったままだった彼の帽子をぎゅっと握り締めた。
「…言いたい事があるなら、言ってくれ。ちょうど二人きりだ。他の隊員たちがいては出来ない話も、ここなら出来るぞ?」
はっと顔を上げると、有紀隊長はこの上なく優しい笑みを私に向けていた。
体が小刻みに震える。まさかこの場で、自分の気持ちを伝える事になるとは思わなかった。
だが、言ってしまわないと気が収まらない。覚悟を決め、私は口を開いた。
「有紀隊長、私は……。」
「ん?」
息を大きく吸い、次の言葉を一息で吐き出す。
「…私は、有紀隊長を愛しています!」
「…!」
彼の目が驚愕に見開かれる。一方、私の口は止まる事を知らない。
「隊長のことを思うと、胸が熱くなるのです…。笑顔を見るたびに、声を聞くたびに、苦しさが増していきます! ですから、その…。」
なおも言葉を続けようとする私の唇に、そっと何かが押し当てられた。
「…少し黙って…。」
それは有紀隊長の人差し指だった。図らずも彼の指に口付けをする形になり、私の心臓は音を立てて跳ね上がった。
有紀隊長は耳を澄ませている。ほどなく、車内アナウンスが次の到着駅を告げた。
「…良かったな、各駅停車のようだ。確かこの時間なら、まだディスティニーに戻る列車があるはずだ。」
そう言って、安心したように笑う有紀隊長。指が離されると同時に、強張っていた私の体も自由を取り戻した。
「…あの、有紀隊長…。」
先ほどの返事は…? と聞く前に、彼は照れたような笑みを浮かべた。
「バルジ、ありがとう…。」
…有紀隊長の顔が、少しではあるが紅潮している。もしかしたら…!?
「……私も、バルジが好きなんだ。言おうかどうしようか迷っていたんだが、まさかお前のほうから告白してきてくれるとは、思っても見なかった。」
あまりの事に、私の頭は真っ白になっていた。まさか、本当に…!?
今、目の前にある、少しはにかんだような笑顔が、私のものになるのか…!?
「バルジ…。」
囁くように名前を呼ばれ、私の中の何かが切れた。
後ろの壁に隊長の体を押し付け、半ば強引に唇を奪う。手に持った帽子で自分たちの顔を隠し、乗客に見られないようにする。
長いような、短いような口付けの後、私は有紀隊長の体を固く抱きしめた。もう絶対に、離しはしません…!
心が通い合った喜びに震えていると、列車が速度を落とし始めた。次の停車駅に着くらしい。
「さあ、行こうか。」
「…はい。」
…また、胸が熱く高鳴る。だけど、今は全然苦しくない。彼への想いが、私の体に満ち溢れているためだ。
ふと、私は自分の手を見やった。有紀隊長の帽子は、まだ私の手の中にあったのだ。
「有紀隊長、これ、お返しします。」
「…ああ、すまん。」
私の手から帽子を受け取ると、彼はすぐにそれを頭に被る。凛々しさが増したような気がした。
ふと気がつくと、有紀隊長の顔がかなり近づいてきている。戸惑っていると、彼は帽子のつばを指で押し上げ、私の唇をそっと塞いだ。
「…!」
呆然としていると、列車が駅に到着する。その時にはもう彼の顔は離れていたが、私は完全に硬直してしまっていた。
「ほら、降りるぞ。」
「あ…。」
有紀隊長に手を引かれ、私はホームに降り立つ。向かい側に停まる列車が、これからディスティニーに戻る列車らしい。
薄い手袋越しに、彼の体温が伝わってくる。それが無性に嬉しくて、私は有紀隊長と並んで歩き始めた。
私たちが乗り込んだ列車は、すぐにディスティニーに向けて出発した。先ほどと同じようにデッキに佇み、眼下の星を眺める。
目の前には星の海があり、振り向けば有紀隊長の優しい微笑みがある。
ディスティニー駅に戻るまでの間、私たちは何度も何度も、口付けを交わした。


それは、本当に小さな旅行だった。
旅行と呼ぶには、あまりにも短かすぎる。
それでも、とても大切な時間だった。
愛する人と、心を通い合わせることの出来た、極上の時間だったから。

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