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銀鉄SS 「Bittersweet Flavor」 (ブルース×バルジ) 

静かなピアノの旋律が、ほの暗い空間を満たしている。
SDFの寮の近くにある、俺がいつも通っている酒場。そこに今日は、バルジ隊長を伴って来ていた。
「ふう…。」
一杯目のグラスを空け、バルジ隊長は嬉しそうに微笑む。この店は、普段からあまり賑わうことはない。俺はそこが気に入っていた。静かに飲めるし…、大切な人を連れてくるのには、最適な場所だった。
「お前が、こんな良い店を知っていたとはな…。」
空になったグラスの中で、氷が小さな音を立てる。そのタイミングを見計らって、俺は目の前の店主に、事前に頼んでおいたものを出してもらうように言った。
「何だ?」
バルジ隊長の前に、出してもらったワインのボトルを置く。かなり値の張るもので、普段であればとても手を出す気にはならない代物。それを目の前に置かれて、バルジ隊長はひどく驚いた。
「ブルース、これは…?」
「…俺の奢りです。どうぞ。」
それを聞いて、隊長はさらに驚いた。
「しかし、こんな高い物を…。」
困り顔の隊長。俺は彼の青い瞳をじっと見つめ、低く囁いた。
「いいんです。…バレンタインの、お返しなんですから」
「あ…。」
言われて初めて、今日がホワイトデーだと思い当たったらしい。バルジ隊長は、薄暗い店内でもはっきりと分かるほど、顔を赤く染めていた。
「バレンタインの時に、チョコレートを下さったではないですか。その、お返しのつもりです。」
「…そ、そうか。では、ありがたく、頂こうかな…。」
多少ぎこちない口調で、隊長はワインをグラスに注ぐ。深い赤と、芳醇な香り。
「ブルースも飲んでくれ。二人で飲みたい…。」
「…では、頂きます。」
俺のグラスに、隊長が手ずからワインを注いでくださった。二人のグラスが合わさり、澄み切った音を立てる。彼のはにかんだような笑みが、いつも以上に愛しく思えた。


グラスを空け、俺はため息をつく。中辛口の味わいは、奥深い風味を思うさま引き立てている。やはり、このワインを選んで良かった。
ふと見ると、バルジ隊長のグラスはまだ空いていない。それどころか、先ほどから全く中身が減っていない。まさか、口に合わなかったのだろうか…。
「隊長、どうなさいました?」
「ん? あぁ…。」
俺の言葉に、隊長はグラスの中身に視線を落とす。軽く揺らすと、それだけで香りが立ち上る。
「…お口に、合いませんか?」
「いや、そんなことはない。美味いぞ。」
俺を安心させるかのように、バルジ隊長は笑ってくれる。しかし…。
「…ただ、やはり勿体なくてなぁ。あっという間に飲んでしまうのがな。」
「そんな事、気になさらないで下さい。」
あなたに喜んでもらいたくて、注文しておいたのだ。気を使わせてしまうのは、逆に申し訳ない。
だが、俺の胸のうちを余所に、隊長はグラスを目の高さまで持ち上げ、穏やかな笑顔を浮かべる。
「…それに、これはブルースからの想いなんだろう? それなら、一口ずつ、しっかり味わって飲みたいじゃないか。」
「隊長…!」
彼の言葉に、俺は胸を打たれた。だから、少しずつ飲んでいらしたのか…。
(…そういう、生真面目なところも、俺の心を掴んで離さないんですよ、隊長…。)
胸に生まれた温かい感情に、自然に笑顔になってしまう。すると、隊長が俺のグラスに二杯目のワインを注いだ。
「改めて、乾杯といこう。」
「…はい。」
グラスの立てる、澄んだ音色。隊長がグラスの中身を喉に流し込んだのを見て、俺もそれに倣った。
仄かな酔いと、バルジ隊長への想いだけが、体中を満たしていた。


ピアノの旋律は、いつの間にか止まっていた。しかし、その余韻は、いつまでも俺たちのいる空間に残っていた。

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銀鉄SS 「Permanent Vacation」 (バルジ×渉) 

目が覚めて最初に見えたのは、いつもの自分の部屋の白い天井ではなく、温かみのある、木目の天井。
「あれ…。」
何度か瞬きをして、私はその場に起き上がってみる。カーペットの上に敷かれた布団、見覚えのない箪笥、二つの勉強机…。
「…あ。」
そこまで見て、やっと私は昨夜のことを思い出した。確か、夏の休暇を自宅で過ごされる有紀隊長のお供をして、隊長のご実家に泊まらせていただいたんだった…。
簡単に布団を畳んで、身支度を整え、私は階下へと降りていく。居間を通り抜けると、そこが「銀河亭」というラーメン屋の店舗になっている。有紀隊長の奥様、カンナさんは、そこにいた。
「おはようございます…。」
完全に寝過ごしているため、私は恐る恐る奥様に声を掛ける。しかし、彼女は怒ったような素振りもなく、
「あら、バルジさん、おはようございます。よく寝ているから起こさないで上げてって、子供たちにも言ってあったんですよ。」
「そうなんですか…。」
座って、と言われて、私はカウンター席の隅の方に腰掛ける。すると、私の前に遅めの朝食が用意された。
「朝の残り物で悪いんだけれど…。」
「いえ、とんでもありません。ご馳走になります。」
言って、私は箸を取り、味噌汁から口をつける。優しい味わいが、全身を温めてくれた。
「あの、すみません。有紀隊長は、どちらへ…?」
「あぁ、あの人なら、子供たちを森の中の湖に連れて行ってるわ。泳ぎたいんですって。」
「なるほど…。」
話をしながら、食事を続けている間にも、銀河亭は徐々に込み合ってくる。奥様はその対応をてきぱきとこなしてらっしゃった。
「何か、お手伝いでもしましょうか?」
食後のお茶を飲み干し、私は奥様にそう聞いてみる。泊まらせていただいて、何のお手伝いもしないのでは、申し訳ないと思ったからだ。でも、
「あら、いいのよ。せっかくの休暇なんだもの。手伝わせてしまうのも悪いし。」
「はぁ…。」
確かに、不慣れな私が手伝うよりは、勝手知ったる奥様が一人で切り盛りする方が良いのかもしれない。しかし…。
「それより、あなたも湖に行ってきたら? あの人一人で護と学を両方見るのは、少し大変だと思うから。」
「…そうですか。では、お言葉に甘えまして…。」
私は席を立ち、自分が使わせていただいた食器を片付け、外へ出てみた。明るい日差しは明らかに夏の物だが、吹き抜ける風はとても爽やかだった。泳ぐのにはちょうどいい日だ。きっと子供たちもはしゃいでいるだろう…。


居住区から森までは、大きな道を真っ直ぐ行く。よほどの事がない限り、迷うことはなかった。
森に入っても、丁寧に草の刈られた道が、ずっと湖へと伸びている。きっと有紀隊長たちも、この道を通ったはずだ。
やがて、木々の向こうに、きらきらと輝く水面と、子供たちの笑い声が聞こえてきた。
「有紀隊長…っ!」
森を抜けたところで、彼の姿を認めた私は、文字通り硬直してしまった。
有紀隊長が、水着姿だったからだ。子供たちと一緒に泳いだらしく、その体は濡れている。その姿が、眩しくて…。
「…あぁ、バルジ。お前も来たのか…。」
「…あ、え、はい…。」
私はしどろもどろになりながら、手近な木陰へと身を寄せた。真っ赤になった顔を、隊長に見られたくなかったのだ。
「全く、子供たちは元気だな…。少々疲れてしまったよ。」
そう呟いて、隊長は草地に敷いてあったビニールシートに腰掛ける。よく見るとその傍らには、飲み物と、お弁当が入っていると思われるバスケットが置いてあった。ここで一日中遊ぶつもりできたらしい。
「……。」
有紀隊長の隣に座らせていただきながら、私は湖で遊ぶ幼い兄弟に目をやった。有紀隊長が、何よりも大切に思っている存在。
「あまり深い場所まで行くなよ!」
有紀隊長の声に、二人は揃って返事をする。ばしゃばしゃと勢い良く水飛沫を上げ、父と一緒に過ごす休日を、心から楽しんでいるように見える。
「バルジ、お前が来てくれて助かったよ。」
「えっ…?」
不意に言われて、私は心臓が高鳴る。横にいる有紀隊長は、青いタオルを首に掛け、優しい眼差しを子供たちに注いでいた。
「どうせ二人とも、帰るころには疲れて眠ってしまうだろう。そんな二人を同時に連れて帰るのは、ちょっと難しいからな。」
「…そうですね。」
あのはしゃぎ様では、有紀隊長の仰ったとおりになるだろう。そういった意味でも、ここに来たのは良かったかもしれない。
「ふう…。」
有紀隊長は目を閉じ、風を浴びて心地よさそうな表情になる。それを見て、私の心はちくりと痛んだ。
辺りに響くのは、子供たちの上げる歓声と、水の音だけ。その静寂を壊さない程度に、私は小さく呟いた。
「…有紀隊長、私は…。」

…私は、あなたが好きです。奥様や子供たちには敵わないのは分かっていますが、それでも。

その続きをとうとう口に出せず、私は黙り込んでしまう。飲み込んだ言葉の続きが、涙となって、私の目から溢れ出した。
(まずい…!)
隊長への想いを自覚してから、私は何度も涙を流してきた。叶わないと分かっている想いが苦しすぎて。せめてここにいる間は、泣かないようにしようと頑張っていたのだが…。
慌てて指先で拭うも、涙は止まってくれない。そんな私に、隊長はタオルを差し出してくれた。
「どうした?」
「…いえ、目にゴミが入ったようです…。ありがとうございます。」
タオルを受け取って涙を拭くと、私は気持ちを切り替えた。有紀隊長に、いらぬ心配を掛けたくなかったから。
「お兄ちゃん! 一緒に泳ごうよ!」
掛けられた声に視線をやると、子供たちが私に向かって手を振っていた。
「こらお前たち、バルジは水着を持ってきていないんだぞ!」
「大丈夫です、有紀隊長。一緒に遊んできます。」
有紀隊長にそう返し、私はブーツを脱ぎ捨て、膝の辺りまでズボンの裾を捲り上げて、バスケットの横に置いてあったビーチボールを片手に、水の中に入って行った。ひんやりした水が心地いい。
「行くぞ!」
ボールを投げると、すかさず子供たちがそれを取りに行く。先ほどの涙を忘れるため、私は子供たちと全力で遊び始めた。


彼の、側にいられる。 今の私は、それだけで良かった。

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銀鉄SS 「Silence」 (ローレンス×バルジ) 

静かなノックの音が、部屋に響いた。
「…はい。」
その部屋の主、ローレンスが、扉の外に返事を返す。こんな時間に、誰だ…?
「ローレンス、俺だ。」
聞こえてきた声に、ローレンスは警戒の気を緩めた。よく知った相手の声だったからだ。
「バルジか…。」
「ああ。開けてくれ。」
内心ほっとしながらも、訝しげな顔で、ローレンスは部屋の扉を開ける。自分に、一体何の用事があるのだろう。
扉を開けたローレンスは、目の前にいたバルジの笑顔と、顔の横まで高く上げられたビニールの袋に、ふと目を奪われた。
「…一杯、やらんか?」
そう言って、バルジは手に持った袋を指差す。中には、恐らく街で買ってきたものと思われる、ウィスキーの瓶が入っていた。
「…付き合おう。」
元より、酒は嫌いではない。ローレンスは小さく頷いて、バルジを部屋へと招き入れた。
勝手知ったる、とばかりに、バルジは二人分のグラスを棚から取り出す。その間に、ローレンスは冷蔵庫から製氷皿を出し、
グラスの中に氷を満たす。
程なくして、琥珀色の液体が、二つのグラスに注がれる。二人はそれぞれ椅子に座り、無言のままにグラスを傾けた。
心地よい雰囲気が、部屋に流れる。特に言葉を交わすこともない二人だが、沈んでいる、という感じでもない。
互いのことをよく分かり合っている二人だからこそ、無言の時間も苦ではないのだ。
「ローレンス…。」
小さなバルジの呟きに、ローレンスは伏せていた目を上げ、そちらに視線をやる。
「…何だ。」
ローレンスの返事に、バルジはしばらく空中に視線を彷徨わせ、やがて困ったような笑みを浮かべた。
「…すまん。言いたいことを忘れてしまった…。」
「…そうか。」
短く答えると、再び沈黙が落ちる。一杯目を飲み干し、二杯目をグラスに注ごうとして…、ローレンスは突然手を止め、立ち上がった。
「…どうした?」
いきなりの彼の行動に、バルジは驚いたような顔をする。ローレンスはその場に立ったまま、ゆっくりと口を開いた。
「…バルジ、私はどうやら、酔ってしまったようだ。」
「えっ…、一杯しか、飲んでいないのに、か?」
「ああ。だから…。」
そこで言葉を切り、ローレンスはバルジの前まで来て、彼の頬に手を伸ばす。
「なっ…!?」
「こんな事をするのも、恐らく酔っているせいだ。」
囁くように言うと、ローレンスは半ば強引にバルジの唇を塞いでしまう。
「ん、くっ…!」
突然の口付けに、バルジは体をわななかせていたが、…やがて、手の中のグラスをテーブルに置き、自らローレンスの体を自分のほうに引き寄せた。
グラスの中、溶け残った氷が、からん、と小さな音を立てた。

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銀鉄SS 「Fighting Spirit」 (バルジ×渉) 

あなたを守ってあげられるぐらいに、強くなりたい。


私は、非番の日の日課として、いつも訓練室でトレーニングをすることにしている。
今日もそうだった。コスモガンのエネルギー残量をチェックしつつ歩いていると、私は自分が向かおうとしていた訓練室の前に、有紀隊長が立っているのを見つけた。
「お早う、バルジ。」
先に声を掛けてもらったことに恐縮しながらも、私は有紀隊長に挨拶を返した。
「…お早うございます、有紀隊長。…あの、どうなさったんですか? 今日は非番のはずでは…。」
きょとんとした顔の私に、有紀隊長は笑顔を向けてくれ、
「たまには、バルジと一緒にトレーニングをするのも、悪くないと思ってな。」
「えっ…?」
一緒にトレーニングをする、ということは、必然的に訓練室内に二人きり、ということになる。私は思わず顔を赤くした。
「…どうした?」
急に黙ったからか、有紀隊長が心配そうな顔で覗き込んでくる。それに気づいて、私は軽く首を振った。
「いえ、大丈夫です。」
本当は、大丈夫ではない。有紀隊長と二人きりになれる、という事実に、心臓がすごい速さで脈打っている。
顔に出ないように、我慢しなくては…。
「…そうか、では、始めよう。」
そう言って、有紀隊長が先に訓練室に入る。少し緊張しながら、私は彼の後を追った。

「まずは、体を慣らすためにも、レベル1から始めよう。」
「了解。」
有紀隊長の声に、私はコスモガンを抜いて構える。途端に、周りの風景が一変した。
この訓練室は、列車内、駅の構内、山岳地帯など、ありとあらゆる風景の中、本当にその現場にいるような臨場感で訓練が出来る。
「…レベル1とはいえ、油断は禁物だぞ。」
「解っております。」
短く答えると、私と有紀隊長のコスモガンは、ほとんど同時に、現れたターゲットを打ち抜いていた。
そのままレベル2、3、4と難なくこなし、次は最高レベルの5、というところまで来た。
コスモガンの簡易メンテナンスをしている時に、私はふと有紀隊長に話しかけてみた。
「そういえば隊長、よく私がここに来るって分かりましたね。」
私の言葉に隊長は、
「…部下のことは、よく見ているつもりだ。ことに…、お前に関しては余計にな、バルジ。」
意味深な言葉。私はそれに含まれた意味が読み取れなくて、逆に聞いてしまう。
「ど、どういう事でしょうか?」
本気で分からない、というような表情の私に、有紀隊長はとうとう苦笑を浮かべた。
「まったく…。」
呟きながら、有紀隊長は私の胸に額を押し付ける。同時に背中に手を回され、私はまた顔を赤らめてしまう。
「…言わせるつもりか?」
「あ、いえ、あの…。」
言葉よりも、この温もりが雄弁に語ってくれる。有紀隊長が、私に注いでくれる想いを。
「……。」
だから私も、抱きしめることで、その想いを伝えよう。
彼の長めの髪を撫でると、爽やかな石鹸の匂いが立ち上る。心臓が跳ね上がる音がした。
「…おっと、トレーニング中だったな。」
名残惜しそうに体を離し、有紀隊長は笑う。その笑顔に、再び私の心臓は跳ね上がるのだ。
「レベル5、始めるぞ。」
彼に見とれていた私は、その声ではっと我に返った。
「…了解!」
すぐに、景色が切り替わる。今度は街中のようだ。全ての方向に注意を向け、思わぬ方向から飛んできた銃弾をかわし、ターゲットを打ち抜く。
あらかた終わった後、有紀隊長がさすがに一息ついた。その時、
「っ!?」
ターゲットの一体が、有紀隊長を後ろから狙っている。しかも、彼はそれに気づいていない!
「有紀隊長っ!」
私は思わず叫んで、彼の体を床に押し倒した。それまで私たちの頭のあった場所を、銃弾が行過ぎる。
彼を地に伏せさせたあと、私は寝転がった姿勢のまま、そのターゲットを打ち抜いた。
途端に、景色がもとの訓練室のものに戻る。どうやら、あの一体が最後だったらしい。
「…有紀隊長、大丈夫ですか?」
図らずも、自分の下に組み敷いてしまった彼に、私は恐る恐る声を掛ける。もしや、怒ってやしないだろうか…?
顔を上げた彼は、少し憮然とした表情をしていた。
「隊長…?」
「…馬鹿もん。お前に庇われるなど、十年早い。」
「そんなっ…!?」
本気で驚く私に、有紀隊長は顔を綻ばせ、
「…冗談だ。ありがとう。」
私の後頭部に手を回し、そのまま引き寄せた。
「え、隊、長…?」
有無を言わさぬ、彼からのキス。溜まらず、私は自分の体の下で微笑む愛しい人を、思い切り抱きしめた。


何故、非番の日も、こうやって欠かさずにトレーニングをするのか。

それは、こんな風に、何かあった時に、あなたを守れるぐらいに、強くなりたいから。

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銀鉄SS 「Diamond dust」 (バルジ×ブルース、現代パラレル) 

林の中に張ったテント。その前で俺は、簡易コンロに火を熾し、湯を沸かしていた。
厚手のコートを着込んでもなお、この寒さは服を通して肌に染み込んでくる。
テントの中からは、ラジオが聞こえてくる。今夜の天気予報だ。それによると、現在の気温は2度。寒いはずだ。
「ブルース、コーヒーは出来たか?」
テントの中からひょこっと顔を出したのは、シュワンヘルト・バルジ。新進気鋭の写真家だ。
「もう少しです、バルジ隊長。」
鍋の中を見つめながら、俺は答えた。
俺は、彼の助手をしている。彼は何故か、自分のことを「隊長」と呼ばれるのを好むので、俺は彼を「バルジ隊長」と呼んでいた。
ほどなくして湯も沸き、俺は二人分のマグカップにインスタントコーヒーの素をいれ、湯を注いだ。
彼のカップには、角砂糖とミルクが一つずつ。俺は…、甘くしないと飲めないので、角砂糖もミルクも多めに入れてある。
湯気の立ったカップを手に、俺はテントの中へ入る。何やらノートにメモを撮っていた彼に、そっとカップを差し出した。
「お待たせいたしました。」
「あぁ、ありがとう。…うん、良い香りだ。」
俺の手からカップを受け取り、彼は嬉しそうに笑う。一口飲むと、温かな吐息を一つ、ほわっと吐き出した。
「美味い。やっぱり、ブルースの淹れてくれたコーヒーは最高だな。」
それはそうだろう。彼の好みの味など、分かりきっている。
「…ありがとうございます。」
俺もカップに口を付けながら、上目遣いに彼を見る。
「天気予報によると、今夜もよく晴れて、冷えるそうだ。今度こそ絶対に撮ってみせるぞ、ダイアモンドダストを!」
そう言う彼の瞳は、まるで子供のように輝いていた。

彼には、ずっと抱いていた夢があった。
それは、「ダイアモンドダストを、写真に収める」というもの。写真家になったのも、その夢を叶えたいから、らしい。
何でも、幼い頃に親戚の家に泊まったときに一度見たのだという。それから彼はずっと、ダイアモンドダストに魅了されているのだ。
「今度こそ」というのは、彼はもう何回もダイアモンドダストを撮ることに挑戦しているのだ。しかし、タイミングが悪かったり、気象条件が悪かったりで、なかなかチャンスに恵まれずにいる。
だが、彼は決して諦めない。だからこうして、今年も真冬の北海道の山奥の、林の中まで来ている。
「明日の朝あたり、見られると良いな、ブルース。」
「そうですね。」
無邪気な笑みを浮かべる彼に、俺は胸を高鳴らせながら頷いてみせた。

俺は、彼に恋をしている。
きっかけは、俺がまだサラリーマンだった頃、偶然前を通ったギャラリーで彼の個展が開かれていたことだった。
何となく入ってみたのだが、そこで俺はもう1枚目の写真に呆然と見入ってしまった。
ファインダーに切り取られた、風景の優しさ。仕事に追われ、潤いのない生活を送っていた俺にとって、かなり衝撃的だった。
彼の作品は、心の底から温かくしてくれるような、不思議な温もりを持っていた。恐らく、彼の人柄が写真から滲み出てくるのに違いない。
「いかがですか?」
「っ!?」
放心状態のところに、いきなり後ろから声を掛けられて、俺は飛び上がらんばかりに驚いた。
「あぁ、すみません。驚かせてしまったようですね。」
振り向いた俺の目に飛び込んできたのは、今とちっとも変わらない、屈託のない笑顔。

恋に落ちるには、十分すぎた。

それから、何を話したのか覚えていない。ただ、俺は帰ってからも、彼の笑顔が目に焼き付いて、離れなかった。
しかし、俺は彼のことを、当時は名前しか知らなかった。その後も、外回りの間を縫ってギャラリーに通い、彼とたくさん話をしたが、俺の心は満たされなかった。
彼を知れば知るほど、もっともっと深くまで知りたいと思ってしまう。しつこくしすぎて嫌われるのが怖くて、俺は写真の感想や、世間話しかできなかったんだ。
そうしている内に、個展の期間は終わった。もうあそこへ行っても、彼には会えない。名前しか知らないのに、どう探せばいい? 俺は困り果てていた。
名前を頼りにネットで探しても、彼はサイトを持っていないらしく、まったく情報が見つからない。時が経つにつれ、彼への思いはますます強くなっていった。
それから半年くらい経ったある日、俺は仕事で必要な物を買いに、デパートまでやってきた。
そのデパートは、地下にギャラリーがあり、よく展示会をやっている。何の気なしにインフォメーションを見た俺は、その場に凍り付いたようになった。
「シュワンヘルト・バルジ 天上の風景」と書かれたポスターが、そこにはあった。
間違えるはずもない。確かに彼の名だ…! 俺は買い物を後回しにし、一目散に地下のギャラリーへと向かった。
息を切らして入ってきた俺を、彼は驚きながらも優しく迎えてくれた。
「あ、お久しぶりですね! お元気でしたか?」
以前と同じように、優しく話しかけてくれる彼に、俺はとんでもないことを口走った。
「お願いします! 俺を、あなたの弟子にしてください!」
「…え、えええっ!?」
その場に手をつき、土下座のような真似までして頼み込む。俺は必死だった。もう彼と会えなくなるのは嫌だったから。
俺の熱意…、もとい、剣幕に負けたのか、彼は弟子入りを許してくれた。ただし、「弟子」ではなく、「助手」という形だった。
「私はまだ、弟子をとれるような身分ではないので…。」
そう言って、彼は照れたように笑う。そう、その笑顔に、俺は心を奪われたのだ。彼に受け入れてもらえたことが、すごく嬉しかった。
俺は、週末限定で彼の助手を勤めることになった。平日は今までの仕事、そして週末は俺の車に彼を乗せ、遠出をする。数え切れないくらい、二人で色んな場所に行った。山奥で冷えきった体を温泉で温めたり、海でクジラを撮影したり、…楽しかった。
打ち解けるにつれ、彼は俺に敬語を使わなくなった。彼は、よほど親しい人でない限り、常に敬語である。それも信頼の証であり、俺を嬉しくさせた。
そして今、彼は長年の夢を、ようやく叶えようとしている。協力は惜しまない。その瞬間の彼の顔を、いち早く見ることが出来るから。
「さて、少し早いが、そろそろ休もう。明日も早いからな。」
「わかりました。」
俺はコーヒーのカップを片づけ、二人分の寝袋を用意する。保温のためのガス灯をテントの中央に吊し、俺たちは寝袋に潜り込んだ。
「……。」
しばらくすると、彼が寝袋の中でもぞもぞと動き始めた。どうやら、まだ眠れていないらしい。
「…バルジ隊長、どうなさいました?」
「…いや、すまん。何だかわくわくしてしまってな…。」
寝袋から覗かせた彼の顔は、ガス灯の灯りに照らされて、とても明るかった。
「子供みたいだと自分でも思うが、いよいよ夢が叶うって時になると、なかなか眠れないものだな。」
「…そうですね。」
彼の言い方が面白くて、俺は自然と笑顔になる。
「楽しみだなぁ…。」
溢れ出す期待を呟きに込めて、彼は天井を見つめる。それから少し沈黙が続いたので、てっきり眠ったのかと思ったら、彼は唐突にこんな事を言い出した。
「ところでブルース、お前の夢は何だ?」
「…え? 俺の、夢ですか…?」
「そうだ。お前は、どんな写真を撮ってみたい?」
「……。」
考えたことがなかった。彼の夢を叶えるためだけに動いてきたから、いざ自分でやりたいこと、と聞かれても、答えられない。
「別に、写真ではなくてもいいんだぞ。どこに行ってみたいとか、何かを見てみたいとか、そういった事でも…。」
「…隊長、なぜいきなり、そのような事を聞くのですか?」
俺が問うと、彼は照れたように含み笑いを漏らし、続けてこう言った。
「…私の夢を叶えるために、ブルースはたくさん協力してくれた。だから、私の夢が叶った後は、今度はお前の夢を叶える手伝いをしたい。そう思ってな。」
「隊長…。」
とくん、と心臓が音を立てて鳴る。こちらを見つめる彼の目は、優しく、そして真剣そのものだった。
「何か考えておいてくれ。私はぜひとも、ブルースに恩返しがしたい。」
「…分かりました。」
「うん。じゃあ、おやすみ…。」
「お休みなさい、バルジ隊長…。」
それきり、彼はこちらに背を向けてしまう。程なくして、安らかな寝息が聞こえてきた。だが、俺は自分の心臓の音が気になって、なかなか眠れずにいた。
…もし、「俺と付き合ってください」と頼んだら、彼はよい返事をくれるだろうか。
それとも、いくら俺の夢であっても、無理だと断るだろうか。
いずれにしろ、口には出せない。

午前5時。まだ太陽が出ないうちから俺たちは起きだし、撮影の準備を始めた。
インスタントのスープと携帯食料で朝食を済ませ、俺たちはテントの外に出た。途端に、身も凍るような寒さが襲いかかる。
「うっ…!」
堪らず、体を固くする俺に、バルジ隊長は予備の毛布を掛けてくれた。
「大丈夫か?」
「あ、はい…。」
彼のくれた毛布に、体全体が暖かくなる。こんな、何気ない優しさに触れるとき、俺は彼が好きなんだと再認識させられる。
テントの外に、折り畳みの椅子を2つ。そこに並んで腰掛けて、俺たちは夜明けを待った。
「……。」
バルジ隊長は、早くもカメラを構えていた。夜が明ける前の、ほんの少しの間でも、見逃したくない。そういった表情だった。
風もなく、気温も低い。先ほど温度計を見たら、氷点下12度だった。ダイアモンドダストを見るには、絶好の条件だった。
やがて、空が白んできた。と同時に、バルジ隊長の期待感も最高潮に達してきた。
「もうすぐだ、もうすぐだぞ…!」
カメラを持つ手が震えている。緊張と興奮で落ち着かない彼の肩を、俺はぽんぽんと叩いた。
「…っと、そうだな。こんな時こそ、落ち着かないといけないよな。」
大きく息を吐いて、バルジ隊長は俺に笑顔を向ける。何もかもが凍ってしまいそうなこの氷点下の世界の中でも、俺の胸の中は温かくなっている。そして、恐らく一番熱いのは、この日のためにずっと準備をしてきた、バルジ隊長の情熱だろう。
「……。」
隊長…、俺の夢、本当に叶えてくれますか…?
その時、山の端から太陽の光が射し込んできた。あまりの眩しさに手で顔を覆うと、俺たちの周りに、無数の小さな氷の粒が舞い始めた。ダイアモンドダストだ…!
「ブルース!!」
「はい!」
夢中だった。何回もシャッターを切った。何回もフィルムを交換した。持ってきたフィルムを使い果たしたところで、彼はようやくカメラを下ろした。
「やった…!」
会心の笑みを浮かべ、バルジ隊長は俺に抱きついてきた。
「やったぞ、ブルース!!」
「…おめでとうございます、バルジ隊長!」
少しびっくりしたが、俺もすぐに彼の背中に腕を回す。
「うむ。ありがとうブルース、お前のおかげだ。」
「…いえ、俺は別に…。」
「いや。ブルースには、本当に感謝している。私の長年の夢が叶った瞬間に、お前が一緒にいてくれて、本当に良かった…。」
「隊長…。」
見上げた彼の顔は、今まで以上に優しく、喜びのあまりか、瞳が潤んでいるように見えた。
「…ブルース、ダイアモンドダストが無事に撮れたら、お前に言おうと思っていたことがあるんだ。聞いてくれ。」
「はい…。」
バルジ隊長はじっと俺を見つめ、顔を赤らめる。その様子を見て、少しだけ開けた俺の唇を、彼はいきなり自分ので塞いできた。
「んっ…!」
思わぬ形で降ってきた口付けに、俺はどうする事もできない。唇を離した後、彼は苦笑を浮かべ、俺に謝ってきた。
「…すまん、順番を間違えた…。」
「……!?」
まだ混乱している俺を落ち着かせるように、バルジ隊長は俺をもう一度抱きしめ直す。
「ブルース…、愛している。これからもずっと、私のパートナーでいてくれ。」
「隊、長…!」
彼の言葉が、胸に染み渡る。気がつくと、俺は隊長の背中に回した腕に、さらに力を込めていた。
「…返事をしてくれ。」
「ぁっ…、すみません。…俺で良かったら、その…。」
ダメだ、上手く言葉にならない。それが分かったのか、隊長が助け船を出してくれた。
「…OKなんだな?」
「…はい!」
大きく頷くと、彼は先ほどよりももっと嬉しそうに笑った。
「良かった…!」
自分を包む温もりが嬉しくて、何だが涙腺が弱くなってきた。
「ところでブルース、昨夜も聞いたが、お前の夢は何だ?」
「あぁ…、もう、叶ってしまいました。」
この思いを受け入れてもらい、彼とこれからもずっと一緒にいたい。それが俺の夢だったから。
「…そうか、ブルースも、私と同じ気持ちでいてくれたんだな。」
「はい。」
滲んできた涙を指で拭い、俺は改めて彼を見つめる。青色の双眸が映す景色を、これからもずっと、その隣で見られるのだ。それ以上の喜びがあるだろうか。
「…愛しています、バルジ隊長。」

まだ消え残るダイアモンドダストが空気中を舞う中、俺たちは互いの温もりを確かめ続けていた。

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